川淵@バスケ

どうも新田です。いやはや、おととい夜のBリーグの開幕戦、ローンチを飾るにふさわしい素晴らしい試合でしたね。スポーツ記者時代、野球かラグビーかボクシングの取材が大半だったこともあり、「スラムダンク世代」にしては、バスケットボールのリテラシーがルールすら怪しい程度なのはお恥ずかしいのですが、それでも、これだけの規模のプロスポーツリーグの発足は10年に一度あるかないか。ビジネス的な視点からの興味もあってテレビ観戦しておりました。
 

バスケ界の混乱を収めた豪腕は健在だった

LEDの電飾を駆使したコートなどショーアップ化した会場の雰囲気、あるいは記念すべきリーグ初得点が外国人選手というあたり、1993年のJリーグ開幕戦を彷彿とさせましたが、日本バスケ界を最大の窮地から救って「奇跡」のような、この日に道筋を付けた川淵三郎・前JBA会長の凄みに恐れ入りました。

数年前、某政治家と川淵さんとの対談に隣席する機会がございまして、正直言うと、当時すでに70代後半、好々爺といった雰囲気に、豪腕の異名は過去のことだと感じたものでした。なので、プロリーグが10年近く分裂したままの日本バスケ界を立て直すのには、川淵さんといえども苦戦するのではないかと率直に危惧しておりました。

その時点で無期限の国際試合停止の制裁を科した国際バスケットボール連盟(FIBA)の外圧を後ろ盾にしていたとはいえども、しかしバスケ素人の私の杞憂でしたね。半年ほどで新リーグ創設に道筋をつけ、FIBAの制裁解除を五輪予選に間に合わせた折は「豪腕健在キターっ」と心の中で思い切り平伏いたしました。

スポーツ界にも巣食う日本型意思決定システム

前述のように、運動記者時代の私は担当外のバスケにほとんど関心がありませんでしたけども、その頃は総理経験者の麻生さんがバスケ協会会長をやっていても、内紛続きの報道が散発している様にバスケ界のヘタレっぷりに呆れていたものです。停滞気味の競技団体のなかには、大物の政治家や財界人を会長職で迎えているところもあったりします。バスケ界はその典型でした。

ちなみに、「なんでバスケは麻生さん、ラグビーは森さんを会長にするんですかね」と、ベテラン記者に尋ねたら「何かあった時の“用心棒”で雇っている」と教わったものです。

いま考えると、その「用心棒案件」というのはおそらく競技場の整備費の陳情など永田町・霞が関案件対策なんでしょうか。バスケのリーグ分裂のように利害が複雑に絡んだ問題の解決や、FIBAの制裁のような緊急事態には機能不全に陥っているのが正直なところでした。

池田信夫氏がしばしば書いている「日本型意思決定システム」の典型だと思いますが、名目的なリーダーを「神輿」に担ぎ、意思決定はボトムアップで、かつ組織内(あるいは業界内)の合意形成を重視しているわけですから、スピード感に欠け、紛糾する利害を調停・裁定することができず堂々巡りになるわけですよ。元法制局長官やら元公取委員長あたりを据える日本のプロ野球のコミッショナーはまさに「神輿」。12球団オーナーがコミッショナーの任免権持っているから何か改革する時に意思決定がスタックしやすいわけです。

Bリーグの設立に至る詳しい経緯は、今後また研究してみたいと思いますが、Jリーグ創設に至る経緯を振り返ると、80年代後半のサッカー界もまたプロリーグ創設の方向性が決まった後も、プロ野球全盛の当時「チーム名に企業名は入れろ」的な意見が出たりして、欧州型の地域密着型プロクラブの構想が進まない恐れもありました。

川淵流イノベーションとは

じゃ、川淵さんたちの打開策の何がよかったのか。元電通マンで、サッカービジネスのドンキングこと広瀬一郎さんが「最大のターニングポイント」と指摘するのは、リーグの組織づくりにおけるイノベーション。プロスポーツの新リーグ結成は通常、参加するチームを確定させてからリーグの制度設計に入るわけですが、川淵さんたちは構想破綻のリスクを取りながらも旧日本リーグのクラブとは切り離したところに意思決定のシステムを置きました。私が100回誉めるよりも、広瀬さんの評価を読んだほうがあなたも腹落ちするでしょう。

参加条件が既存組織の利益代表でない者たちによって決められたことは、ガバナンスという観点から考えれば大変重要な点である。時としてリーグ全体の利益と、個々のチームの利益との間には齟齬をきたす。そういう場合、「総論賛成、各論反対」という見慣れた光景になりがちだ。全体の利益優先のルールも無ければ、結果の拘束範囲、違反した場合の罰則規定なども明確ではない。なぜなら「既存団体の参加メンバーによる。彼らのためのリーグ」として組織されたからだ。それが日本の競技団体のほとんどの姿なのである。(出典;広瀬一郎『サッカービジネスの基礎知識』

ちなみに、この本は4年前の刊行で、前述のくだりのガバナンスがヘタレな事例として、まさにバスケ界の内紛が言及されているのは奇遇なんですが(笑)、どうやらBリーグ創設に際しても、2つのリーグの言い分を調整してなんとか折り合いを付けて…というそれまでの協会の進め方から、最初にリーグの設計案を示すやり方に変えていったそうです(出典;ダイヤモンドオンライン『苦境の日本バスケ界に光明 川淵三郎チェアマンの“剛腕”改革が奏功』)。

この記事からも「戦略が組織に従う」日本型意思決定を脱却し、「組織が戦略に従う」という理想的な意思決定に移行した様子が窺えます。しかもFIBAの外圧がありましたから、こういう時の日本型ムラ社会の手のひら返しは速い速い(笑、参考・池田氏のブログ

経済学・経営学の視点からも興味深い“川淵流”

もちろん、この日本社会においてKYともいえる「川淵流」は波紋を呼ぶのはご承知の通り。Jリーグ時代も「独裁者」と呼ばれたり、バスケ界転身後も日本型リベラル広報紙こと日刊ゲンダイさんがバスケ界の不満分子をネタ元にしてdisり記事を書いているわけですが、まあ、Bリーグが成功すれば、こんな声はかき消され「いつもの日刊ゲンダイさんのポジショントークでしたね」となるはず。

いずれにせよ、川淵型マネジメントが日本的意思決定とどう一線を画してきたのか、停滞気味の日本社会における希少なイノベーション事例として、経済学・経営学の視点から、もっと研究される意義はあるように感じますが、いかがでしょうか。いまやアジアの新興国にJリーグのビジネスモデルを輸出するまでになっております(拙稿;WBCよりクール!Jリーグの“大東亜共栄圏”戦略)。

とりあえず、Bリーグがどう展開していくのか、昨日の試合を視察したプロスポーツ関係者も新たなライバル出現に興味津々のようで、ワタシメも今週末にかけての他の試合を楽しみにヲチしてみたいと思います。ではでは。

※画像はJBA公式サイトより引用

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